株式を発行する――それは、会社の成長戦略や資金調達の中核をなす重要な行為です。
しかし一方で、その法的ルールを誤解したまま進めてしまうと、株主とのトラブルや手続きの無効リスクにもつながりかねません。
そこで本記事では、ビジネス実務法務検定2級の問題をベースに、「株式の発行」に関する誤解しやすい5つの論点を解説します。
特に、会社法上のルールやその実務上の影響を正確に理解することは、管理職としての信頼と判断力を高める武器となるでしょう!
設問①:設立時の株式発行は、発行可能株式総数の範囲内なら自由?
設問①
A社を設立する際には、A社の定款で定める発行可能株式総数の範囲内であれば、その多寡を問わず自由に株式を発行することができる。
正解:×(誤り)
解説:設立時の株式発行には「発起人の引受」が必須!
会社設立の際に発行できる株式数は、たとえ定款で定めた発行可能株式総数の範囲内であっても、すべてを自由に発行できるわけではありません。
なぜなら、設立時に発行される株式(設立時発行株式)は、すべて発起人が引き受けなければならないと会社法に定められているからです(会社法第25条・28条)。
つまり、発起人が引き受けられる数の範囲内でしか株式は発行できないという制限があるのです。
要約
発行可能株式総数の範囲内であっても、設立時には発起人の引受可能数の範囲でしか発行できないため、「自由に」発行できるわけではないという点に注意が必要です。
設問②:発行可能株式総数の上限は、発行済株式の4倍まで?
設問②
A社は一定の要件のもとで発行可能株式総数を増加させることができるが、増加後の発行可能株式総数は増加前の発行済株式総数の4倍を超えることはできない。
正解:〇(正しい)
解説:発行可能株式総数は「発行済株式数の4倍以内」が原則!
こちらは正しい内容です。会社法では、発行可能株式総数を変更する際の基準として、発行済株式総数の4倍以内でなければならないというルールがあります(会社法第37条第3項)。
これは、会社が不当に多くの株式を発行し、既存株主の持株比率を不当に下げる(いわゆる希釈化)ことを防ぐための制限です。
ただし、これは公開会社でない株式会社に適用されることが多く、公開会社には別途ルールがあることにも留意しておきましょう。
※一部の情報源では、この制限を誤って「存在しない」と解説しているケースもありますが、会社法上はしっかりと4倍ルールが存在します。これは特に管理職候補者が法務対応する際に大事なポイントです!
要約
会社は株主総会の特別決議により発行可能株式総数を増加させられますが、増加後の発行可能株式総数は原則として「発行済株式総数の4倍以内」に制限されています。
設問③:株主割当では、持株数に応じた権利がある?
設問③
A社がその株主に募集株式の割り当てを受ける権利を与える株主割当の方法により募集株式を発行する場合、A社の株主は、原則として、その有する株式の数に応じて割り当てを受ける権利を有する。
正解:〇(正しい)
解説:株主割当は「公平性」を保つ制度
この設問は正解です。株主割当とは、既存株主に対して、その持株数に応じた新株を割り当てる方法で行う株式発行手続きです。
会社法第199条第3項により、会社が株主割当の方法で株式を発行する場合、株主は原則として自分の持株比率に応じた数の新株を取得する権利を持ちます。
これにより、既存株主の持株比率が一方的に希釈されるリスクを防止できます。
要約
株主割当では、株主はその持株数に応じて新株の割当を受ける権利を持ち、株主平等の原則が守られます。
設問④:違法や不公正な株式発行には、株主が差止請求できる?
設問④
A社の株主は、A社における募集株式の発行が、法令またはA社の定款に違反する場合、または、募集株式の発行が著しく不公正な方法により行われる場合において、不利益を受けるおそれがあるときには、A社に対し、当該募集株式の発行を止めることを請求することができる。
正解:〇(正しい)
解説:会社法第210条に基づく株主の差止請求権
この設問も正解です。株主は、法令違反や不公正な方法による株式発行によって、自身の権利や利益が侵害される恐れがある場合には、会社に対してその発行を差し止めるよう請求できます。
これは会社法第210条に定められており、経営陣の恣意的な株式発行を防ぐ重要な制度です。
要約
株主は、違法または著しく不公正な株式発行により不利益を受けるおそれがある場合には、その発行の差止めを請求できます。
設問⑤:一部の引受人が出資しないと、発行手続き全体が無効になる?
設問⑤
A社において募集株式の発行が行われた場合において、募集株式の引受人のうちに出資の履行をしないものがいるときは、当該募集株式の発行手続き全体が無効となる。
正解:×(誤り)
解説:一部の履行不履行は「個別の無効」に留まる
この設問は誤りです。会社法第213条によれば、引受人が出資の履行をしない場合には、その引受け部分のみが無効となるのであり、株式発行手続き全体が無効となるわけではありません。
したがって、他の引受人が適切に出資していれば、その分の株式発行は有効に成立します。
要約
募集株式の引受人の一部が出資を履行しなかった場合でも、その人に対する発行のみが無効となり、手続全体が無効になることはありません。
【まとめ】株式発行における5つの実務ポイント
設問 | ポイント | 正誤 | 要点まとめ |
---|---|---|---|
① | 設立時株式発行 | × | 発起人が引き受ける範囲でしか発行不可 |
② | 発行可能株式の上限 | 〇 | 原則、発行済株式数の4倍以内 |
③ | 株主割当 | 〇 | 原則、保有株数に応じた割当権あり |
④ | 差止請求 | 〇 | 違法・不公正な発行には差止請求可 |
⑤ | 出資不履行 | × | 手続全体は無効にならず個別無効に留まる |
【キャリアを変える法務知識】管理職への近道は「正確な理解」から!
「株式の発行」は、単なる資金調達手段ではありません。
それは、経営の透明性・公正性・株主保護に関わる重大な意思決定です。
このような知識を正確に理解しておくことは、部門を超えた信頼を得る鍵となり、あなたの管理職昇進にも確実につながります!

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