ビジネスの現場では、売買契約に関する知識は欠かせません。特に、管理職を目指すビジネスパーソンにとって、契約の基本を正しく理解することは不可欠です。
本記事では、売買契約に関する民法や商法の基本的なルールを解説します。実務に役立つ知識を身につけ、契約トラブルを未然に防ぎましょう。
設問①:中古自動車の売買契約における代金支払期日の計算
設問:
中古自動車の売買契約が10月1日に締結された。当該売買契約において「買主は売買代金を契約締結日の30日後に売主に支払う」と定められた場合、民法上当該売買代金の支払期日は10月31日である。
回答:
○(正しい)
解説:
この設問では、契約書に「買主は売買代金を契約締結日の30日後に支払う」と記載されています。ここでポイントになるのが、「30日後」という表現の解釈です。
■「〇日後」は初日を含めて数える
民法では、期間の計算について明確なルールがあり、「日数で定められた場合」は 起算日に当たる日(=初日)を含めず、翌日から数えるという「初日不算入」の原則が適用されます(民法第140条)。
この設問では「30日後」と記されています。これは、「契約締結日の30日後(=10月1日の30日後)」と明示されているため、起算日は10月1日となり、その日を含めず30日数えます。
実際に10月1日から数えてみると:
- 10月2日:1日目
- 10月3日:2日目
- …
- 10月31日:30日目
つまり、「10月1日から30日後」は 10月30日 ではなく 10月31日 になります。よって、支払期日は 10月31日 が正しいのです。
これは「〇日後」という表現が、「〇日目にあたる日」を指すという文理解釈に基づいた判断です。
要約:
- 民法の原則では「初日不算入」だが、設問では「30日後」と明記されているため、初日(10月1日)を含めず数える。
- 10月2日から数えて30日目は、10月31日。
- よって、支払期日は10月31日で正しい。
契約書に「30日後に支払う」と書かれているときは、契約した日を含めず数えて30日目が支払日になります。この場合、10月2日から数えて30日目は10月31日なので、設問は正解です。
設問②:引渡し場所の未定時における引渡し場所の特定
設問:
新品のパソコンの売買契約において、売主である家電販売店と買主である消費者との間でパソコンの引き渡し場所を定めていなかった。この場合、商法上、当該消費者の現在の住所がパソコンの引き渡し場所となる。
回答:
○(正しい)
解説:
商法では、売買契約において引渡し場所の定めがない場合、引渡し場所は「売主の営業所または住所」とされています(商法第516条第1項)。
しかし、消費者が買主である場合、商法の規定は適用されず、民法の規定が適用されます。
民法第484条によれば、特定物(個性に着目して特定された物)の引渡しは、その物が契約時に存在した場所で行うとされています。
一方、不特定物(種類や数量で特定される物)の場合、引渡しは債権者、すなわち買主の現在の住所で行うとされています。
新品のパソコンは通常、不特定物に該当するため、引渡し場所は買主である消費者の現在の住所となります。
要約:
- 商法の規定は事業者間の取引に適用される。
- 消費者が買主の場合、民法の規定が適用される。
- 不特定物の引渡し場所は、買主の現在の住所とされる。
消費者が新品のパソコンを購入し、引渡し場所を定めていない場合、引渡しは買主の住所で行われます。
設問③:解約手付と解除の可否
設問:
建物の売買契約が締結され、買主は解約手付として1,000,000円を売主に交付した。この場合、買主は、民法上、売主が履行に着手するまでは手付を放棄して当該売買契約を解除することができる。
回答:
〇(正しい)
解説:
民法第557条第1項では、手付は契約の成立を証するために交付されるとされています。
また、同条第2項では、買主が手付を放棄し、売主が手付の倍額を返還することで、契約を解除できるとされています。
ただし、解除が認められるのは、相手方が履行に着手するまでの間です。
したがって、売主が履行に着手する前であれば、買主は手付を放棄することで契約を解除することが可能です。
要約:
- 手付は契約成立の証として交付される。
- 相手方が履行に着手する前であれば、手付を放棄することで契約を解除できる。
買主は、売主が契約の履行を始める前であれば、手付金を放棄することで契約を解除できます。
設問④:再配達費用の負担
設問:
新車の売買契約において約定の引渡期日に売主である自動車ディーラーが買主の自宅に新車を配送する旨が定められていたが、自動車ディーラーは引き渡し期日に買主が予定を忘れて不在にしていたために車両を引き渡すことができず、後日再び買主の自宅に新車を配送した。この場合、2度目の配送に要した費用は民法上買主が負担しなければならない。
回答:
〇(正しい)
解説:
民法第485条では、引渡しに要する費用は、特約がない限り、引渡しを行う者、すなわち売主が負担するとされています。
しかし、買主の都合により引渡しができなかった場合、再配達に要する費用は、買主が負担するのが一般的です。
本件では、買主が不在であったために引渡しができず、再配達が必要となったため、その費用は買主が負担することになります。
要約:
- 引渡し費用は原則として売主が負担する。
- 買主の都合で再配達が必要となった場合、その費用は買主が負担する。
買主の不在により再配達が必要となった場合、その費用は買主が支払うことになります。
設問⑤:瑕疵ある商品の受領拒否と履行遅滞
設問:
新品の冷蔵庫の売買契約に基づき、売主である家電量販店が買主の自宅に冷蔵庫を配送したが、冷蔵庫の扉に大きな傷がついていたため、買主は冷蔵庫の受領を拒否した。この場合、民法上、家電量販店は冷蔵庫を納品するために、買主の自宅に配送した後は、履行遅滞の責任を免れる。
回答:
×(誤り)
解説:
民法第412条第1項では、債務者がその債務の履行をしないときは、履行遅滞となるとされています。
また、同法第562条では、売買の目的物に瑕疵がある場合、買主はその瑕疵を理由に契約の解除や損害賠償を請求できるとされています。
本件では、冷蔵庫に大きな傷があるという瑕疵があるため、買主は受領を拒否することができ、売主は履行遅滞の責任を免れることはできません。
要約:
- 瑕疵ある商品を引き渡した場合、売主は履行遅滞の責任を免れない。
- 買主は瑕疵を理由に受領を拒否することができる。
傷のある冷蔵庫を届けた場合、売主は責任を免れず、買主は受け取りを拒否できます。
まとめ:売買契約の正しい理解がトラブルを防ぐ!
売買契約においては、契約内容や法律の規定を正しく理解することが重要です。
特に管理職を目指すビジネスパーソンは、契約の基本を押さえておくことで、トラブルを未然に防ぎ、円滑な業務遂行が可能となります。
本記事を参考に、実務に役立つ知識を身につけていきましょう!

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