監査役の役割は、会社のガバナンスに直結する非常に重要な職務です。特に、将来的に管理職を目指すビジネスパーソンにとっては、監査役の職務権限について正確に理解しておくことが、マネジメント力の向上につながります。
今回は、ビジネス実務法務検定2級の「監査役等」に関する設問①〜⑤をもとに、重要なポイントを解説していきます。実務で役立つ知識や注意点も交えてお届けしますので、ぜひ最後までご覧ください!
設問①:監査役は、目的外行為を止めることができるか?
設問:
X社が会社法上の公開会社である場合において、X社の監査役Aは、X社の取締役BがX社の目的の範囲外の行為をする恐れがあるときには、当該行為によってX社に損害が生じる恐れがあるか否かにかかわらず、Bに対し当該行為を止めることを請求することができる。
→【誤り】
解説:
会社法第381条3項において、監査役が取締役に対して職務の執行停止を請求できるのは、会社に著しい損害を与えるおそれがある場合に限られています。
つまり、「目的の範囲外の行為」という理由だけでは、監査役が行為の停止を請求することはできません。
わかりやすい解説:
監査役が取締役に「その行動はやめてください」と命令できるのは、その行動によって会社に大きな損害が出そうなときに限られます。
たとえ、会社の事業目的から外れた内容の行動(たとえば、まったく関係のない事業への投資など)であっても、すぐに大きな損害が出そうにない場合は、監査役はその行動を止めさせることはできません。
ポイント:
・会社の損害が「明確に想定される」ことが条件です。
・目的外行為=必ずしも「違法」ではない点に注意しましょう。
・損害が明確に想定される場合でなければ、介入はできない。
設問②:監査役の権限を会計監査に限定できるか?
設問:
X社は、会社法上の公開会社である場合であっても、X社の監査役Aの職務権限を会計監査に限定することができる。
→【誤り】
解説:
非公開会社(公開会社でない会社)においては、定款で監査役の権限を「会計監査に限定」することが可能です。
しかし、公開会社ではこの限定ができません(会社法第389条3項)。公開会社では、業務監査も含めた「フルスペックの監査役」が必要とされているのです。
わかりやすい解説:
非公開会社(株式を自由に売買できない会社)なら、監査役の仕事を「お金の動きのチェック(=会計監査)」に限定することができます。
しかし、公開会社(株式を広く一般に公開している会社)では、そうした制限はできません。
公開会社の監査役は、会計のチェックだけでなく、経営全体が法律に沿って行われているかという“業務監査”も担当しなければならないのです。
ポイント:
・公開会社の監査役には「業務監査権限」も必須。
・「監査の範囲を狭めることはできない」と覚えておきましょう。
実務での注意点:
IPOや株式上場を目指す企業では、監査役の職務が会計監査に限定されていないかを事前にチェックすることが重要です。
設問③:監査役は取締役会で意見を述べる義務があるのか?
設問:
X社が取締役会設置会社である場合、X社の監査役Aは、原則としてX社の取締役会に出席し、必要があると認めるときは、意見を述べなければならない。
→【正しい】
解説:
会社法第383条1項では、監査役は取締役会に出席し、必要があると認めるときは意見を述べる義務があるとされています。
これは、会社の経営判断に対してチェック機能を果たすために不可欠な役割であり、黙って傍観しているだけでは責任を果たしていないことになります。
わかりやすい解説:
会社の重要な意思決定が行われる場である「取締役会」には、監査役も基本的に出席しなければなりません。
そして、会社の運営に問題がありそうだと感じたときは、黙っているのではなく、その場で自分の意見を言う必要があります。
これは、監査役としての大切な責任のひとつです。
ポイント:
・取締役会での沈黙=責任を果たしていないことになる!=監査役の職務怠慢と評価されかねない。
・「出席して、必要なら口を出す」ことが義務。
・意見を述べる「義務」があることに注意。
設問④:監査役会の同意は必要?
設問:
X社が監査役会設置会社である場合において、X社の監査役の選任に関する議案を株主総会に提出するときは、X社の取締役は、X社に監査役会の同意を得なければならない。
→【正しい】
解説:
会社法第329条3項により、監査役会設置会社においては、監査役の選任議案を株主総会に提出する際には、監査役会の同意が必要です。
これは、監査役の独立性を担保するための重要な制度設計です。
わかりやすい解説:
監査役が複数いる「監査役会」がある会社では、新しい監査役を選ぶときに**「この人を推薦してもよいですか?」と、事前に監査役会の同意を取らなければなりません。**
これは、会社の経営をチェックする立場の監査役に経営陣の意向が強く働いてしまわないようにするためです。
つまり、監査役の“独立性”を守るための大切なルールです。
ポイント:
・取締役が勝手に候補者を出すのはNG。
・監査役会の「OK」が必要です。
実務への応用:
監査役会設置会社で新たに監査役を選任する場合、社内調整だけでなく、事前に監査役会と合意形成を図ることが不可欠となります。
設問⑤:元取締役は監査等委員になれるのか?
設問:
X社が監査等委員会設置会社である場合、現在X社の取締役であるもの、または過去にX社の取締役となったことがあるものは、X社の監査等委員になることができない。
→【誤り】
解説:
監査等委員会設置会社においては、「社外取締役」が監査等委員になる必要があります(会社法第331条6項)。
しかし、過去にX社の取締役だったことがある人でも、一定の期間が経過していれば「社外取締役」として認定されることがあります(会社法施行規則)。
わかりやすい解説:
「監査等委員会」のメンバーには「社外取締役」でなければなりません。
たしかに、現在の取締役は“社外取締役”とはいえませんので、監査等委員にはなれません。
しかし、昔取締役だった人でも、一定の期間が経っていれば「もう社外の人」と見なされることがあります。
そのため、過去に取締役だったというだけでは、必ずしも監査等委員になれないわけではありません。
ポイント:
・「今の取締役」は絶対にNG。
・「元取締役」は条件次第でOKになるケースあり。
注意すべき点:
・現在の取締役は社外取締役になれない。
・過去の取締役経験者でも、社内との関係性が薄れれば、社外取締役とみなされる可能性あり。
【まとめ】監査役の職務を理解することが、経営リスクを減らす!
いかがでしたか?
監査役の役割と権限に関する理解は、管理職を目指すうえで不可欠な知識です。監査役の視点を持つことで、より俯瞰的なリスクマネジメントが可能となり、経営判断の質も向上します。
◆ 今回の学びを活かすには?
- 定期的に会社法の改正情報をチェックする
- 社内の監査体制や役員構成を理解する
- ビジネス実務法務検定2級を活用して法務リテラシーを高める!

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